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脳出血

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脳出血:わかりやすい脳卒中のお話・その(1)

                          芝本町クリニック  池田裕介

 

 「脳卒中」についての説明書や文献は世にたくさんありますが、ここでは「なるべくわかりやすく」を優先しました。決して専門的な話ではありません。かかりつけ医をしている元・脳外科医が日頃患者さんにお話ししている内容です。

 

 「脳卒中」は大きく分けて、脳の中(実質内)で出血する「脳内出血=脳出血」と脳を覆う薄いくも膜の下で出血する「くも膜下出血」、そして脳を養う動脈が閉塞して起こる「脳梗塞」に分けられます。まずは「脳出血」から説明します。

 

以前は「脳出血」と言えば「高血圧性」だった

 私が医者になった40年前には「高血圧性脳出血」という用語が存在しました。今では「高血圧性脳出血」という表現は消え、「脳出血」もしくは「脳内出血」とのみ表記されます。40年前には高度経済成長期は既に終わっていましたが、まだ「猛烈サラリーマン」の習いが残っていました。「残業当たり前」「タバコをスパスパ喫いながら仕事」「付き合い酒は断らず、塩辛い食事と遅い帰宅時間」、当時は産業医学がまだ発展しておらず勤労者の健康管理を真剣に考える姿勢は希薄でした。良い降圧剤も少なく高血圧症の管理は不良で、その為に動脈硬化が進行し脳出血で倒れる人が極めて多かったのです。出血部位は脳の比較的底で中寄りにある「被殻」と「視床」が7割を占めており、被殻出血に対しては頭蓋骨を大きく開ける開頭手術が積極的に行われました。しかし、手術絶対の潮流は1985年頃に大きく変わりました。「手術の鬼」であったある脳神経外科医が、意識障害の軽い症例では内科的療法の方が優位であると発表したのです。その時の脳神経外科学会総会での混乱は良く覚えています。その後、高血圧症に対する内科療法の進歩や、健康管理意識の改善で「高血圧性脳出血」はどんどん減少していきました。比較的重症例に行われる手術の方法も、頭蓋骨に小さな穴を開けて行う内視鏡手術が主流になりました。

 

脳出血は減ったけれど

 統計上明らかに脳出血は減少しましたが、未だに高血圧が原因の脳出血も見られます。しかし、最近注目されているのは高齢者に多いアミロイド脳血管症(アミロイドアンギオパチー)による脳出血です。脳の血管にアミロイドという蛋白(特にアミロイドβ〔ベータ〕蛋白)が沈着することにより起こります。血管はもろくなり、高血圧性と違って脳の表面に近い所である皮質下に出血を起こすのが特徴です。症状は頭痛から手足の麻痺・言語の障害、家族が見ると「なんとなくぼーっとしていておかしい」というような状態まで様々です。基礎疾患に高血圧症を全く伴っていないことも多く、血圧が正常でも再出血することがあるのも特徴の一つです。

一方、アミロイド脳血管症は認知症の最も多い原因であるアルツハイマー病との関連が指摘されています。アルツハイマー病はアミロイドβ蛋白が神経細胞に沈着することで発生すると言われています。皮質下出血を起こした患者さんが後にアルツハイマー病となることや、逆にアルツハイマー病の患者さんが皮質下出血を起こすことも見られます。ということで、この高齢化社会では、アミロイド脳血管症による皮質下出血は注意が必要な疾患です。高齢者の皮質下出血を見たらまずアミロイド脳血管症を疑う事。

 

 それでは若い人には脳出血は起きない?そんなことはありません。未成年者から40歳代くらいにかけて発症する脳出血は比較的少ないのですが、脳動静脈奇形や海綿状血管腫、モヤモヤ病など、出血の原因となる重大な疾患のあることが多いのです。専門的な診療が必要であり、手術となれば脳神経外科医の腕の見せ所となります。

 

 脳出血の症状は、以前は「片側の上下肢の運動麻痺と何らかの意識障害」と認識されてきましたが、現在は種々の理由から極めて多様となっており、簡単に説明できません。突然悪くなり自分で起き上がれない様な重症者は119番通報すべきですが、ご自身・ご家族が「何かおかしい」と思う程度でしたらまずかかりつけ医に相談し、必要と判断されたら専門医を紹介してもらうのが良いように思います。

 

 

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