後藤医院 |
榎澤尚子 |
●脂質異常症(ししついじょうしょう)とは
血液中の脂質(コレステロールや中性脂肪など)の量が基準値より多い状態のことで、以前は高脂血症とも言われていました。すなわち、「悪玉」と呼ばれるLDLコレステロールが増えたり、「善玉」のHDLコレステロールが減ったり、トリグリセライド(中性脂肪)が増えたりした状態のことをいいます。
この状態を放置していると動脈硬化が起こり、静かに進行して、心筋梗塞や脳梗塞といった怖い疾患が起こるおそれがあります。LDLコレステロールやトリグリセライドが高ければ高いほど、HDLコレステロールが低ければ低いほど動脈硬化が進みやすくなります。
●脂質異常症はどのような人に多い?
肥満、糖尿病、お酒を飲む人、閉経後の女性、脳梗塞や心筋梗塞などの病気をすでに持っている人、家族に脂質異常症患者がいる人、などがあげられます。
●動脈硬化とは
そもそもコレステロールは私たちの体内の細胞膜やホルモンの原料となる重要な物質ですが、「悪玉」と呼ばれるLDLコレステロールは増え過ぎると血管の壁に入り込む性質を持っています。血管の壁の内側にコレステロールがたまるとプラークと呼ばれるこぶができ、血管は狭くなって血液が流れにくくなります。これが動脈硬化です。
プラークは内部がおかゆのような状態になっていて、崩れやすく破裂しやすいのです。破裂した所には血液のかたまり(血栓)ができて、血管がつまってしまうことがあります。これが心臓の血管におきれば心筋梗塞になり、脳の血管におきれば脳梗塞になります。これらの心臓の血管や脳の血管がつまる病気は日本人の死因の上位に挙げられています。
注意しなければならないのは、動脈硬化はお年寄りになってから始まるものではありません。10代の若い頃から進むと言われ、ほとんど自覚症状はありません。
●硬化を速める危険因子
動脈硬化の原因は「脂質異常症」だけではありません。動脈硬化を起こしたり進めたりする条件を「危険因子」と呼びますが、「男性であること」「年をとること」「高血圧」「脂質異常症」「喫煙」「肥満」「糖尿病」「ストレス」などがあります。こうした危険因子を多く持つ人ほど、動脈硬化が加速し進んでいくことがわかっています。
危険因子の中でも「高血圧」「脂質異常症」「喫煙」は特に重要です。
●健康診断で異常を言われたら
LDLコレステロール値が140mg/dl以上である場合、HDLコレステロール値が40mg/dl未満である場合、トリグリセライド値が150mg/dl以上である場合に脂質異常症を疑います。
●見落としてはならない!家族性高コレステロール血症
生活習慣とは関係がなく、遺伝が原因で生まれつきLDLコレステロール値が高い場合があり、こうした方は若いうちから動脈硬化が進みます。200人~500人に1人の割合で存在するこの「家族性高コレステロール血症」は非常にみつかりにくい病気です。
図に示すように黄色腫や角膜輪がみられることもあります。
・LDLコレステロール値が180mg/dl以上と高い
・黄色い膨らみ(黄色腫)が手の甲やひざ、ひじ、まぶたなどにみられる
・家族の中にコレステロール値が高い、あるいは若くして心臓病の人がいる
このうち2つ以上が当てはまる人は、年齢に関係なく必ず医師にご相談ください。
●まず、食習慣・生活習慣を見直しましょう
治療の基本は食事療法です。食事に注意するだけで、薬を使わずにコレステロールや中性脂肪が下がることもあります。薬が必要な場合でも、食事に気をつければ薬の効果が高まります。
基本的には伝統的な日本食を意識しましょう。
肉の脂身やバター、ラードを控え、魚、野菜、大豆製品、海藻、きのこ、未精製穀類(玄米や胚芽米・ライ麦など)を取り合わせて食べましょう。
糖分(甘いお菓子・ジュース)や塩分、アルコールのとり過ぎ、飲み過ぎにも気をつけましょう。
適正な体重の維持を心がけましょう。
●最後に
生まれた時から一生つき合わなければならない血管の変化ですが、変化を起こし進める危険因子の一つである「脂質異常症」に早く気づき、食事・運動・禁煙などに気をつければ予防でき、その進行を食い止めることも可能です。「お薬を飲んでいるから大丈夫」というわけではなく、健やかで丈夫な血管を保つよう、良い生活習慣を維持しましょう。
また健康診断などを利用して自覚症状がほとんどない「脂質異常症」の早期発見に努めましょう。
参考文献
動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年度版:日本動脈硬化学会編
脂質異常症診療ガイド2018年度版:日本動脈硬化学会編
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