更年期障害に対する治療法は、ホルモン補充療法(HRT)や漢方や安定剤などがあります。その効果には個人差があるので、最も自分に合った方法を先生と一緒に選んでいきましょう。しかし、最も多くの人に合っていて、効果も高いのはホルモン補充療法(HRT)です。
まず、更年期障害の症状はびっくりするほど、改善します。何で今まで我慢してきたのだろう、早く先生に相談すれば良かったといってくれる患者さんがほとんどです。そして、それ以上に次のような効果があり、現在は更年期障害が無い人でも、予防医学として治療を受ける人が増えています。
近年、老人の寝たきりが問題になっています。”骨粗鬆症”といって骨がもろくなる病気があります。これになると、ちょっと転んだだけで股関節の骨折をおこし、ねたきりの重大な原因となっています。女性に多く、それは閉経後から急に骨がもろくなるためで、日本人の65才以上の50%、80才以上の80%の女性が骨密度が危険域となっています。それは骨代謝に女性ホルモンが深く関わっているからなのです。HRTは骨代謝を盛んにし骨を丈夫にします。これは、骨を強くするといわれる、カルシウムやビタミンDや日光浴よりも効果が高いというデータが出ています。
御存知のように、悪玉コレステロールは動脈硬化を促進します。動脈硬化は心筋梗塞・脳卒中・動脈瘤などの原因の一つです。現在成人病として恐れられているほとんどの病気に、高コレステロール血症が関与しているといっても過言ではありません。HRTは悪玉コレステロールを下げ、善玉コレステロールを上げる効果があり、動脈硬化の予防になります。
HRTはコラーゲンを増やし、肌をみずみずしく保ちます。しわの量は、閉経後に急に増えますが、それを遅らせます。
広義には、更年期障害の一つですが、膣炎や膀胱炎や尿失禁は、閉経後増加します。これを予防する効果があります。
アルツハイマー病は、老人性痴呆の原因の一つです。HRTは、アミロイドPという物質を減らし、アルツハイマー病の予防になります。
以上のような効果があり、HRTは全女性に勧められる治療となりました。では、副作用はないのでしょうか。
子宮体癌は、ホルモン依存性のがんですので、HRTすなわちホルモン剤を服用することにより、増加することが懸念されます。確かにエストロゲンというホルモンを単独で服用するとその危険があります。しかし、プロゲステロンというホルモン剤を一緒に服用すると、逆に子宮体癌の危険は低くなります。しかも、当院では服用中は、6ヶ月毎に子宮体癌の検査をしますので、服用していない人に比べ、早期発見できる可能性が高くなります。
乳ガンもホルモン依存性のガンですので、ホルモン剤を服用することで、乳ガンの発生率が増加することが懸念されます。乳ガンの自然発生率は、約600人に1人ですが、HRTを10年以上内服した場合は600人に1.3人となるという報告があります。しかし、逆にいえば600人に598.3人は乳ガンにならないわけです。この確率よりも骨粗鬆症や動脈硬化で亡くなる確率はもっと高いわけです。アメリカの学会で発表された報告によれば、HRTを受けている人の方が乳ガンは1.2倍増加したが、他の心筋梗塞や骨折が減ることにより、全体の死亡率はHRTを受けている方が低いというデータがでました。また、HRT中の患者さんには、当院では6ヶ月毎に乳ガン検診を行います。
このHRTをすると、胸がはる感じがする方がいらっしゃいます。乳腺が反応するためですが、害はなく約3ヶ月位でなくなります。人によっては不正出血のある方がありますが、これも害はなく、つづけて飲んでいるとなくなります。どの薬もそうですが、数%の方には肝臓や腎臓などに負担がかかる人がいますので、3ヶ月毎に採血検査を行います。稀に気持ち悪くなる方もいますが、その時は飲み薬ではなく、貼り薬に変えます。
その人にあった飲み方があります。代表的な方法を図に示します。また、飲むと気持 ち悪くなるという人には、貼り薬を使います。
いつやめても問題ありません。しかし、いきなりやめれば、更年期障害の症状を持つ方はすぐ症状が再発します。3~6ヶ月治療して、その後、徐々に減量すると再発せずにすむことが多いようです。成人病予防として服用している方は、論理的には、足が丈夫で歩けるうちはずっと飲んだ方が良いということになります。しかし、例えば5年・10年と決めて飲んで頂いても、骨はその分丈夫になりますし、動脈硬化のリスクもその分下がります。5年分若返ったのだから良しとして、中止するのも一つの考え方だと思います。