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聴診記(秋田魁新報記事):第6~10回

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ピロリ菌

【6回目です】  (2009年4月27日) ピロリ菌/判断難しい除菌治療

春先から初夏にかけてのこの時季と、秋口になると、胃潰瘍(かいよう)、十二指腸潰瘍患者が増え、再発も多いという経験的な印象を持つ。就職、進学、人事異動などに伴うストレスが原因ではないかと推察する。潰瘍の薬を服用していながら、腹痛の悪化や潰瘍からの出血で救急外来を受診する患者も少なくない。

しかし、潰瘍の発症・再発にピロリ菌が関与することが分かり、除菌(退治)が行われるようになってから、再発が減ってきたように思われる。潰瘍の患者に、ピロリ菌やその除菌について説明することは一般的に行われていることである。また、ピロリ菌が胃がんに関与することも知られている。日本人のピロリ菌の感染率は五十歳以上では70―80%と推定され、感染率は高いが、最初の除菌で80―90%の患者に効果が確認されている。

除菌により胃がんの発症が有意に減少したという報告を背景に、今回、学会のガイドラインが六年ぶりに改定された。ピロリ菌の感染者には活動性胃炎が起こり、それを背景として種々の疾患が発生することを考え、除菌がその予防につながるとして、ピロリ菌除菌治療の適応疾患が(1)胃潰瘍・十二指腸潰瘍(2)胃MALTリンパ腫(3)特発性血小板減少性紫斑病(4)早期胃がんに対する内視鏡的治療後(5)胃萎縮(いしゅく)性胃炎(6)胃過形成性ポリープ(7)機能性ディスペプシア(上腹部症状はあるが、胃カメラなどで症状の原因となりそうな器質的疾患が確認できないもの)(8)逆流性食道炎―などに拡大。胃・十二指腸以外の「ピロリ菌感染症」に対しても除菌が推奨された。

除菌療法は二種類の抗生物質と胃酸分泌を抑える薬を用いる「三剤併用療法」で行われる。潰瘍の患者や過去に潰瘍にかかった患者は健康保険が適用されるが、予防のためには保険が利かない。また、アレルギー、下痢(ひどい場合に血便)、味覚異常などの副作用がある。また、除菌することで胃酸が増え、逆流性食道炎が起こることもあるなど問題もある。

除菌は多くの調査で重要かつ必要な治療であり、潰瘍患者に積極的に勧めたいところではあるが、前記のような問題もあり、除菌治療を行うか否かの判断が難しい面もある。

メタボリック(上)

【7回目です】(2009年6月1日) メタボリック(上)/「善玉」減り「悪玉」増

「メタボリックシンドローム」は、「内臓脂肪の蓄積」を基盤として、「糖尿病」「高脂血症」「高血圧」など動脈硬化性疾患発症の危険度の高い状態をいう。「メタボ」という言葉で、子供から大人まで、日常、使われるようになり、その対策として、健診も行われている。

動脈硬化性疾患の中でも心筋梗塞(こうそく)や脳梗塞などは生命にかかわることから重視されている。肥満には下腹部や腰まわり、おしりなどの皮下に脂肪が蓄積する「皮下脂肪型肥満」(いわゆる洋ナシ型)と、「内臓脂肪型肥満」(リンゴ型)の二つのタイプがあり、「内臓脂肪の蓄積」はリンゴ型に当たる。これはCTでの断層撮影で明らかになる。

内臓脂肪は運動不足、過栄養、遺伝、加齢、喫煙、閉経、アルコール過剰、ストレスなどさまざまな要因で蓄積する。脂肪細胞からはさまざまな「アディポサイトカイン」というホルモンが分泌され、「善玉」と「悪玉」のものがある。「アディポ」は脂肪、「サイトカイン」は生理活性物質を意味する。

「善玉」には動脈硬化予防効果のあるアディポネクチン、「悪玉」には高脂血症に関与する遊離脂肪酸、糖尿病に関与するTNF―α、遊離脂肪酸、レプチン、高血圧に関与するアンジオテンシノーゲン、動脈硬化に関与するPAI―1などがある。標準体形の脂肪細胞(小さな脂肪細胞)からは、「善玉」が多く分泌される。ところが、内臓脂肪が蓄積することで、脂肪細胞が大きくなり、「善玉」の分泌が減って、「悪玉」の分泌が増え、動脈硬化の原因となる病気が発症してくる。

2005年に発表された「メタボリックシンドローム」の診断基準による「内臓脂肪蓄積」の目安は「ウエスト周囲径」が男性で85センチ以上、女性は90センチ以上。「危険因子」の目安が(1)中性脂肪値が150mg/dl以上、またはHDLコレステロール値が40mg/dl未満(2)収縮期血圧が130mmHg以上、または拡張期血圧が85mmHg以上(3)空腹時血糖値が110mg/dl以上―とされている。しかし、「ウエスト周囲径」の基準値が男性より女性が5センチ長いことなどが問題視されるなど、賛否両論がある。おそらく今後は基準が変わると思われるが、難しい問題だ。

メタボリック(下)

【8回目です】(2009年7月13日) メタボリック(下)/日常生活の修正から

前回は(1)「内臓脂肪蓄積」(必須)と2個以上の「危険因子(脂質、血圧、血糖)」を有するときに「メタボリックシンドローム」と診断される(2)内臓脂肪が蓄積することで、大きな脂肪細胞となり、「善玉」のアディポサイトカインの分泌が減り、高脂血症、糖尿病、高血圧などに関与する「悪玉」の分泌が増えて、動脈硬化の原因となる病気が発症する(3)内臓脂肪は、さまざまな要因(運動不足、過栄養、遺伝素因、加齢、喫煙、閉経、アルコール過剰、ストレスなど)で蓄積する―ということを紹介した。特定健診(メタボ健診)では、腹囲、危険因子から判定し、医療機関受診や特定保健指導を勧めている。

危険因子に悪玉のコレステロール(LDLコレステロール)が入っていないが、LDLコレステロールは動脈硬化の重大な危険因子であり、別格に管理する必要があるためだ。「メタボ」の患者は非患者と比べて、心血管系疾患(心臓や脳の血管で生じる病気)の危険度が1・8倍も高い。日本人の死亡原因の約30%が心血管系疾患であること、脳血管疾患は「寝たきり」の原因の第1位であることからも十分な対応が必要だ。

治療は内臓脂肪を減らすこと、減量が第一。その基本は食事と運動。食事は1日3回、腹八分目でカロリーの取り過ぎに注意し、脂質(特に動物性)を控える。高脂血症、高血圧、糖尿病が疑われたら、食事のコレステロールを1日300ミリグラム以下にし、食物繊維を十分に取る、食事の塩分を減らす、アルコールを控えめに。加工食品(たらこ、かまぼこ、ハムなど)には塩分が多く、取り方も注意。お菓子、果物の制限も重要だ。

運動は主に酸素を消費する方法で筋収縮のエネルギーを発生させる運動である有酸素運動がよいといわれる。速歩、サイクリング、水中運動など、息切れせず、汗ばむくらいの運動(きついと感じない程度)を、1回30~60分、週3回以上行う。エレベーター、エスカレーターを使わずに階段を、近くでの買い物は徒歩や自転車で、犬の散歩、歩数計の利用など日常生活での工夫も必要。運動は治療中の病気があれば、主治医に相談してから。禁煙も忘れられない。「メタボ」克服を日常生活での身近なことを修正することから始めたい。

上腹部症状

【9回目です】(2009年9月7日) 上腹部症状/訴え多様、難しい診断

上腹部症状は、上腹部痛(胃の辺りの痛み、みぞおちの痛みなどと表現はいろいろ)、吐き気、ムカムカする、膨満感(おなかが張る)、胸やけ、げっぷが出る、つかえ感、食欲低下―など多様だ。患者さんがこれらの症状で「悩む」と同時に、診断・治療する側も悩むことが多い症状だ。

上腹部痛などの症状が非常に強いなど緊急性がある場合、患者と相談の上で血液検査、腹部エックス線写真、腹部超音波検査、上部消化管内視鏡検査(胃カメラ検査)などを最初から選択し、診断、治療へと進む。そこまで至らない程度であれば、薬で様子をみることが多い。薬を飲んでも、症状が変わらない、さらに強くなった場合は検査をすることになる。

食道、胃、十二指腸の病気が強く疑われる場合は、胃カメラで検査を行う。出血、びらん(潰瘍(かいよう)より浅い傷など)などの炎症所見が、食道にあれば逆流性食道炎、胃にあれば急性胃炎、炎症が高度になれば胃潰瘍、十二指腸潰瘍と診断され、それぞれの標準的な治療を行う。

内視鏡で前記の所見がなく、胃粘膜の発赤、萎縮(いしゅく)、肥厚などある場合、一般的に「慢性胃炎」と診断される。慢性胃炎は本来、胃粘膜の病理組織診断(顕微鏡での観察)によるものだが、日本におけるこの病名には(1)組織学的慢性胃炎(前記)(2)形態学的慢性胃炎(内視鏡検査による診断)(3)症候性慢性胃炎(自覚症状の持続による診断)が含まれているといわれる。

(3)は最近、機能性胃腸症(FD)として扱われ始めている。また、胃酸などの逆流により症状や炎症が引き起こされる疾患を胃食道逆流症(GERD)といい、内視鏡的に食道炎を認める「逆流性食道炎」と、食道炎がなく、逆流症状(胸やけ、食道への逆流感など)のあるNERDに分けられる。特にFD、NERDは症状を十分、知ることが重要だ。

胃食道逆流症、急性胃炎、潰瘍、慢性胃炎の治療には胃酸を抑える薬、胃粘膜を保護する薬、消化管運動機能改善薬などが使われるが、症状を改善するために、どの薬を選択するか難しいところだ。

上腹部症状の診断、治療に日々悩まされている。私の経験から、春先、秋口は胃潰瘍、十二指腸潰瘍の再発を多く感じるので、心当たりの方は注意してほしい。

病気に立ち向かう

【10回目です】(2009年10月12日) 健診で早期の対策を

ある問題集にこのような問いがあった。

【問題】左記の組み合わせで誤っているものはどれか。

(1)ヒポクラテスの誓い―守秘義務(2)ヘルシンキ宣言―インフォームドコンセント(説明と同意)(3)リスボン宣言―自己決定権(4)ニュルンベルク倫理綱領―セカンドオピニオン(5)ジュネーブ宣言―人命の尊重。

(1)は「医聖」と呼ばれ、古代ギリシャの西欧医学の基礎を築いた科学者ヒポクラテスの言葉で、医療に携わる者の心構えとされている(2)は1964年世界医師会総会で採択された「ヒトを対象とする生物学的研究(臨床試験)の倫理原則」(3)は81年世界医師会総会で採択され、医療における自己決定権が初めて記載された(4)は47年、ナチスの人体実験を裁いた「ニュルンベルク法廷」から出たもので、人体実験の反省から、「社会的利益のために被験者を犠牲にしてはならない」という、医学研究の精神を示したものである(5)は48年世界医師会総会で採択された、ヒポクラテスの誓いの倫理的精神を現代化・公式化したもの。正解は(4)である。

医療を行う場合は、患者の秘密を厳守し、病気、検査、治療などを分かりやすく説明し、患者自身に決めてもらう。決定に迷う場合は、主治医以外の医師に意見を求める「セカンドオピニオン」が基本となる。医師側は「専門用語」をいかに分かりやすく説明するかが必要となる。患者は、市民講座、講演会などを通して「病気を理解するための知識」を得ることになるだろう。

これまでも同じことを繰り返し言ってきたが、将来大きな病気につながるメタボリックシンドローム、糖尿病、高脂血症、高血圧など生活習慣にかかわるものに対して、自覚症状がないからと侮らず、健診などを利用して早期に対策をとってほしい。治療中の病気から、ほかのがんにかかることも十分考えられるので、年1回はがんに対する検査を医師と相談の上、進んで受けてほしい。経済情勢の厳しい現代、治療継続の困難さが増えている。それをいくらかでも軽減するために医師に相談してほしい。患者、家族、医師と日ごろから話す機会を持ち、お互いを知り、病気を共有し、立ち向かってほしい。

(わかまつ・ひでき わかまつ内科クリニック院長、由利本荘市)

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