先日の熊本の震災の報道を見て、震災時の地域医療について考えてみました(あくまで私見ですが)。
日本は国民皆保険制度でほとんどの国民は何らかの医療保険を保持し、比較的安価で質の高い医療が受けられる非常にありがたい国です。
それがひとたび震災が起こるとどうなるでしょう、今回の様な局地的な震災では、必ず非被災地からの救援の手が差し伸べられ、最低限の医療は受けることができます。しかし無条件で平時と同じ医療が受けられるわけではありません。
なぜなら診療所の医師や看護師なども被災者だからです、おそらく診療所の建物は壊れ、多くのかかりつけ患者さんの記録も失われてしまうことでしょう、また最近は院外処方方式をとっている医療機関が多く、診療所そのものに医薬品の備蓄が無く、また医師自身も診療所から離れたところに住んでいる場合があり、震災時に即応することはよっぽど運が良く無いと出来ないと思います。
一方、大きな総合病院等は耐震構造の建物で、医薬品の備蓄も豊富にあり、何とかスタッフをかき集め診療を再開することが出来るでしょう。しかし震災直後の医療はまず怪我(外傷)の患者さんが多く発生するため、医療体制もそれに合わせて構築されます。
では、平素慢性疾患で治療を受けている患者さんたちに対してはどうでしょうか?。震災直後はそのような患者さんは手持ちの薬が無く、途方に暮れることになると思います。
運よくかかりつけの診療所の建物が残っており、そこは院内処方で医薬品の備蓄が多少あり、医師も怪我をせず無事だったとして。
「いつもの薬、4週間分下さい」 と言ってもまずもらえません。
なぜならそのような診療所には他の診療所の患者さんも殺到してしまい、当然我々医師はそのような患者さんにも対応しないといけないからです。
東北の震災の際はその様な診療所にやはり長蛇の列ができたそうです。その際現場では、「何時間も待って薬がもらえなかった。」ような事がおきないよう、かかりつけであろうとなかろうと、薬は1日分しか処方しなかったそうです。そのおかげか患者さん達は並んで待ってさえいれば必ず薬はもらえると信じ、文句も出ず待ち続けくれたそうです。
もしかかりつけ以外の診療所に行かなくてはならなくなった場合は、まず自分の病名、最低限必要な薬の名前、禁忌薬(アレルギー等があって使ってはならない薬)の名前ぐらいは初対面の医師に自分で伝えなくてはなりません。平時の診療の場合はそれらが判らなくても調べる余裕がありますが、震災時はそんな余裕がありません、少なくとも病名、常用薬の名前、禁忌薬の三つの情報は必ず覚えておくか、避難持ち出し袋にお薬手帳にメモして入れておきましょう。
また、たとえかかりつけ医に診てもらえても、患者さんのデーターが全て頭に入っているわけではないので、もしカルテなどを焼失した場合は患者さんからの情報のみが頼りです。
また、睡眠薬や痛み止め、湿布などの薬は必要不可欠な薬ではなく、降圧剤や血糖降下剤、喘息や狭心症の薬などが必要不可欠な薬です、そのような薬を中心に震災時一日たりとも欠かしてはならない必ず自分に必要な薬を把握しておきましょう。まずはかかりつけ医に事前に相談しておく事が大切です。
また早々に被災地を離れ、安全な地域で震災が治まるのを待つ事も考えましょう。
震災後、同じ場所で同じ医療機関で生活を再開できるとは限りません、そのような時も円滑に治療を再開させるため、ぜひ避難持ち出し袋には健康保険証と一緒にお薬手帳等も一緒に入れておきましょう。
以上大変長くなりましたが震災時の地域医療について私なりの考えを書いておきました。